2016年6月25日土曜日

インピーダンスとバッファーの役割

間が空いてしまいましたね。スミマセン。こちらは元気でやってます。

BOSSのペダル型チューナーのニューモデル=”TU-3W”には内部のバッファー回路をON/OFFできるスイッチが搭載されています。これを使うと、接続を変更すること無く、簡単にバッファーの効果を確認できるんですね。いろいろテストしてみたら面白い結果が得られたのでレポートしてみたいと思います。


その前に簡単に「インピーダンス」について解説してみましょう。

ギターの出力インピーダンス

普通のエレキギターの出力インピーダンスは、シンセなどと比較すると高く(=概ね250kΩ以上で1000kΩ以下)、その結果、ノイズが乗りやすく、ケーブルの長さにも影響され主に高域成分が劣化しやすい特性になります。ギターから10m以上のケーブルを使うとかなり「ハイ落ち」するなんてことはご存じですよね?

しかも、そのインピーダンス値は一定ではなく、ピックアップの種類、ギター側のボリュームの設定、さらには周波数帯域(演奏する音域)などにも影響を受けます。まとめると次のようになります。

・シングルコイルよりハムバッカー搭載のギターのほうがインピーダンスは高い
・フルテンよりボリュームを半分~7掛け程度に設定するほうが高いインピーダンス
・高い音域のフレーズを弾くほうが、出力インピーダンスはより高くなる

これらの組み合わせでインピーダンス値が決まります。

エフェクターの入力インピーダンスにも注目!

数100kΩの高いインピーダンスのギター信号を、それよりも低い入力インピーダンスの機器に入力すると、音は大々的にこもります。例えば、「入力インピーダンス=16kΩ」の"RE-201”などような古い機材に、ギターをそのまま接続するとモコモコにこもってしまいます。


一方、近年のBOSSのコンパクト・モデルの仕様を確認してみると、

入力インピーダンス=1MΩ(=1000kΩ)
出力インピーダンス=1kΩ

となっています。”TU-3W”のバッファーをOnにした場合も同じスペックになります。

ギターの出力インピーダンスよりも、高い入力インピーダンス仕様のエフェクターの回路を通過すれば、ギターの信号はロス無く低いインピーダンス値に変換されます。BOSSのコンパクト・エフェクターのほとんどは、バイパス時もバッファー回路を通り、エフェクト・オフ時もインピーダンス変換が行われます(このような回路は「バッファード・バイパス」と呼ばれます)。

低いインピーダンスに変換すると、
・外来ノイズに強い。
・長いケーブルなどを使っても劣化(主にハイ落ち)しない
・多数のエフェクターを直列にしても劣化しにくい
・スイッチング・ノイズが無い

などのメリットがあります。

「長いケーブル」というのは「エフェクター以降」のケーブルのこと。ギターからエフェクターまでを長いケーブルで接続すれば当然ハイ落ちします。

※もっとも、このハイ落ちを狙って敢えて長いケーブルを使う人もいます。カールコードとかね。

検索すればさらに詳しい解説がいろいろ読めると思います。島村楽器さんのサイトにもわかりやすい記事がありました。→こちら

エフェクターを直列接続して実験

さて、ここからが本題。バッファーは上記のメリットがある反面、何度も複数のバッファーを通れば、多少、音質に影響がでます。一方、バイパス・オフ時にバッファーを回避する仕様の回路を搭載したモデルは「トゥルーバイパス」と呼ばれ、バッファーの影響は回避できる反面、バッファーのメリットがそのままデメリット、つまり、「ハイ落ち」、「ノイズ」などのリスクとして現れます。

バッファーをオフに設定したスイッチャー”ES-8”を使って、8個のモデルのエフェクトをオフ状態で接続して実験してみました。全てがバッファード・バイパスのモデルの場合は、音質的な変化よりも若干音量が下がる傾向です。個人的にはわずかに低域が削れる印象も。

一方、全てトゥルーバイパス機を8台つなぐと大幅に高域が削られた、よく言えばマイルド、悪く言えばこもったサウンドになりました。


多数のエフェクターを直列で接続する場合、個人的にはどこかでバッファーを通してロー・インピーダンスに変換したほうが扱いが楽と感じていますが、組み合わせや接続順によってサウンドが異なってくるので注意してください。

回路による音の違い

そこで、今度は代表的な回路を搭載したモデルの前段に"TU-3W"を接続し、バッファーを切り替えた場合の影響について考えてみました。どちらが良いとか悪いとかではなく、音の変化の傾向だけを理解していただければOKです。トゥルーバイパス・モデルのインピーダンス値はエフェクト・オンの時だけ有効になります。

・TU-3W→ファズ・フェイス
前回の記事でも書きましたが、ジム・ダンロップ製のファズ・フェイスはトゥルーバイパス仕様。エフェクト・オン時の入力インピーダンスは10kΩとかなり低いため、ギターを直接接続した場合と、バッファーを介して接続した場合では、音色やギター側のボリューム操作時の振る舞いが全く異なり、特にボリュームを少しでも下げると急激に歪み量が減るのが特徴です。60年代当時のサウンドを求めるなら、TU-3Wのバッファーをオフにするか、ファズ・フェイス→TU-3Wの順で接続すればOKです。


・TU-3W→TS9
Ibanezの"TS9"はバッファード・バイパス機。入力インピーダンス=「500kΩ」なので、ギター直後に接続した場合はバイパス時も若干甘いサウンドになります。したがって、TU側のバッファーをオフにするとややマイルドに、オンにするとフラットなサウンドになります。実はBOSSの現行モデルでも”SD-1”と”DS-1”だけは入力インピーダンス=「470kΩ」。ギター直なら同様にやや甘いサウンドになる傾向です。


※エフェクト・オン時のサウンドも前段のバッファーのON/OFFで音が変化します。

・TU-3W→BD-2
“BD-2”は入力インピーダンス=「1000kΩ」、出力=「1kΩ」。インピーダンス的には”TU-3W”の設定に関係無く、”BD-2”の出力はローインピーで固定。パッチケーブル1本分だけハイ落ちするものの、耳では違いはわからないのでは?”TU-3W”のバッファーはお好みで。


・TU-3W→EP Booster
「Xotic」製のこのモデルはトゥルーバイパス仕様。エフェクト・オン時は入力インピーダンスが「1MΩ」、出力側が「2kΩ」。バイパス時はTUの出力インピーダンスが保持されます。

A. ”TU-3W”=バッファー=オフ、"EP Booster"がバイパスの場合:
ハイ・インピーダンスのまま次の機器に出力されます。

B. ”TU-3W”=バッファー=オン、"EP Booster"がバイパスの場合:
ロー・インピーダンスの信号が保持されます。

C.  ”TU-3W”=バッファー=オフ、"EP Booster"のエフェクト=オンの場合:
"EP Booster"の入力インピーダンスがが高いので、フラットなままロー・インピーダンス出力。エフェクトが掛かるので音色自体も変化します。

D.  ”TU-3W”=バッファー=オン、"EP Booster"のエフェクト=オンの場合:
「C」とサウンド的にはほとんど同じ。”EP Booster”のON/OFFを切り替えて使用するならTUのバッファーはオンが良いかも。(どの状況でもインピーダンスが安定するから)

”EP Booster”→”TU-3W”と接続して、状況によってTU側のバッファーの設定を考える方法もあります。


・TU-3W→Sweet Honey OD(SHOD)
「Mad Professor」の歪み系はモデルによって入力部の回路が異なっているようですが、このモデルはトゥルーバイパスで入力側は「260kΩ」、出力インピーダンスは「25kΩ」。状況によってインピーダンスが変わるので結構ややこしいですね。


A. TU側のバッファー=オフ、SHODのエフェクト=オフの場合:
ギターからのハイ・インピーダンスのままの信号が出力されます。

B. TU側のバッファー=オン、SHODのエフェクト=オフの場合:
TUの出力インピーダンスが保持されます。

C. TU側のバッファー=オフ、SHODのエフェクト=オンの場合:
ギターをSHODに直接つないだ場合と同等。SHODのインピーダンスが低めなので、ファズ・フェイスほどではないものの、ややマイルドで、ギター側のボリューム設定などにクセが出ます。信号はロー・インピーに変換されて出力されます。

D. TU側のバッファー=オン、SHODのエフェクト=オンの場合:
SHODにロー・インピー(1kΩ)が入力されるので、「C」とはサウンドも振る舞いも異なります。

「ギター→SHOD」のサウンドを重視するなら、これも「SHOD→TU-3W」と接続した方が良さそうですね。後段に何を接続するかにもよりますが…。

・TU-3W→Phase 90
70年代当時のMXRのモデルは、エフェクト・オフ時にはバッファーは通らないものの、回路の一部を経由して出力されるやや特殊な設計になっています。エフェクト・オフ時の信号ロスを改善する目的で”TU-3W”のバッファーをOnにするのがオススメ。


これらのことを踏まえていろいろ実験してみてください。でも、実際にはこれらが混在する形でエフェクターを使用することになり、それぞれのエフェクトのON/OFF状況によって事態はさらに複雑化します。これは、先日のセッションに持って行ったセット。うーん、悩みます。


JC-120とバッファーの話

スタジオなどで"JC-120"を使って実験したことはありませんか?「直接JC-120にプラグインした場合と、バッファー回路を通ったエフェクターを介して接続すると音が違う」と感じた人もいるでしょう。実際に”TU-3W”のスイッチを切り替えながら"JC-120"でプレイすると、確かにわずかながらサウンドが異なりました。


“JC-120”のスペックを確認すると、入力インピーダンスは「680kΩ」になっています。フェンダーなど、「1MΩ」に設定されているアンプの入力インピーダンスと比べてやや低い数値です。「ギターを直接JCに接続」し、「ハムバッカーで」、「ボリュームをやや絞って」、「高い音域を弾く」、つまりより高いインピーダンスで入力すると、バッファーを通した場合と比較すると、若干音が甘くなるのが確認できると思います。これが「BOSSのエフェクターを通すと音がブライトに聞こえる」理由なのです。逆に、トゥルーバイパスのモデルだけを多数直列で"JC-120”につなぐと、バイパス時にはかなりハイ落ちするっていうことは覚えておくと良いと思います。まあ、JCをアンプ直で鳴らす人は少ないでしょうし、1個以上のバッファーを通せばOKということです。


また、“JC-120”の「LOW」インプットは更にインピーダンスが低い(=100kΩ)ので、バッファーを通らない信号は接続しないほうが無難です。

※エフェクター前段にワイヤレス・システムを使った場合や、ギター側にプリアンプが内蔵されている場合は、常にロー・インピーダンスになります。念のため。

今回は長文かつ専門的な内容になってしまいましたが、お役に立てたでしょうか?たまにはゆるい記事も書きたいと思う、今日この頃です。

註:「トゥルーバイパス」という言葉は、機械式スイッチ仕様の古いモデルを含む場合と、90年代以降のLED表示を可能にしつつ、バイパス時にバッファーを通らないモデルだけを指す場合とがあるようです。今回のこの記事では前者も「トゥルーバイパス」と表記しました。


2016年6月3日金曜日

TU-3Wとチューナーの話

 いよいよ「技クラフト・シリーズ」のチューナー=”TU-3W”が発売になります。5機種目の技クラフト・モデルということですね。


主なスペックは以下の通り。
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・技WAZA CRAFT の魂が宿った世界標準のペダル・チューナー。
・定評あるチューニングとプレミアムなバッファをひとつのペダルで両立。
・世界標準のチューニング機能をTU-3 からそのまま踏襲。
・オーディオ回路を新たに設計し直し、今までになくピュアな信号伝達を実現。
・バッファとトゥルーバイパスの切り替えにも対応。
・安心の長期5 年保証。

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ブルーのインジケーターがカッコイイ!


TU-3などと同様に左側のスイッチを長押しすることで「高輝度モード」になります。野外などで使用する場合などに明るく表示させることができます。


詳細はBOSSの公式サイトでご確認ください。

チューナーが無かった時代

 アマチュア時代(1970年代中盤)を思い返すと、便利なチューナーなんていうものは存在せず、ピアノや音叉(おんさ)に合わせて耳でチューニングするしかありませんでした。これが音叉さ!!見たことも無いなんて人もいそうです。


 70年代の後半になると、廉価なモデルが各社から発売になります。BOSS製としては、下の写真の左上の”TU-120”(1978年発売)が第一号機のようですね。最初はLED仕様だったんですね。僕にとっての最初のチューナーは針式のKORG製”GT-6”。購入した時はメチャクチャ嬉しかったですね。


 BOSS製針式モデル(上写真の右上)の”TU-12”が1983年に発売になると、チューナーのスタンダード機としてロングセラーに。個人的にも84年の”TU-12H”(下写真中央)と合わせたら、5台以上は買ったような気がします。(奥は"TU-15"、手前は"TU-80")


 1998年にコンパクト型チューナー=”TU-2”(右)が発売になるとこれが大ヒット。BOSS社内でもこれほど売れるとは思っていなかったらしいですよ。そしてその後継機が現行の”TU-3”(左)というわけです。


ニューモデル=”TU-3W”の特長

”TU-3W”はチューナー機能に関しては従来のモデルと変わらないのですが、色づけの少ないサウンドが持ち味のバッファー回路とトゥルーバーパスを切り替え可能になっています。

 そこで、スイッチャー=”ES-8”を使ってバイパス時にサウンドの違いが現れるかどうかを実験してみました。ES-8のループにTU-3W”と”TU-3”を接続して、ES側のバッファーのON/OFFやTU-3Wのアウトプット・スイッチを切り替えながらサウンドチェックを試みたのですが、チューナー単体を使っているだけではそれほど大きな違いは認められませんでした。後段に多数のエフェクターを接続する場合や、特殊な機材に接続する時に威力を発揮するのではないかと思われます。また、大音量での使用時にはノイズ面でのメリットがありそうです。


バッファーとトゥルー・バイパス

 BOSSのコンパクトとしては初めて「トゥルー・バイパス機能」が搭載されました。バイパス時にバッファー回路を通るか否かを、スイッチ1つで切り替えられる点がユニーク。使用環境によって簡単に切り替えられるので、耳に聞こえるサウンドを基準に選択可能というわけです。前述のように、トゥルーバイパスのエフェクターを直列で多数接続する場合や、ライブ時の立ち位置からアンプまでの距離が遠く、長めのケーブルを使用する必要がある場合はバッファーをOnに、後段にバッファー搭載モデルを接続したり、TU-3Wをエフェクターの最後段に接続する場合はトゥルー・バイパス側を選択するほうが良いかもしれません。因みにトゥルー・バイパス回路搭載のエフェクターも、ほとんどのモデルはエフェクトをOnにした場合はバッファーを通ることも覚えておきましょう。


 ハイ・インピーダンス入力が前提の古いファズやワウペダルの場合は、バッファーをスルー(=トゥルー・バイパス)を選択したほうが本来のサウンドになります。BOSSの”PW-3”や写真のようにファズ・フェイス系を後段に接続する場合は、そのサウンドは激変しますので試してみてください。(絶対的にバッファーOFFが良いということではありませんよ!お好みで選択してね)


 実はこのTU-3Wの回路は通電されていない場合は、スイッチの位置に関わらずトゥルー・バイパスに自動的に切り替わる仕様になっています。電源ケーブルの断線や電池切れなどのトラブル時も信号経路は途切れない配慮がなされているのです。

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まだまだ、ネタ的には書き足りないのですが、長くなってしまったので続きは次回に。お楽しみに!